2011年03月19日

昔書いた話を載せてみます。

5年前に書いた話を原文ままで載せてみます。
拙くて読みづらい文章だけど、たぶんこれが精一杯だったあの頃の。
僕にとって大切な大切なお話です。 

川尻恵太





■「リリアン」■


リリアンは頭がとっても良くって
宇宙の事も数字の事も言葉の事だって
なんだって知ってた。
だけどリリアンには友達がいなかった。
皆がね、口を揃えてこう言うんだ。

「リリアンはロボットだ」

リリアンはちゃんと人間なのに。
皆はリリアンにそう言うんだ。
リリアンはね、本当に頭がいい。
皆がリリアンの事をロボットだって言う事を
リリアンは数字の配列とか、宇宙の神秘とかを交えて
理解しようとするだけ。
リリアンはね。
嬉しいって事も、悲しいって事も、幸せの事も、
やさしさって事も、知らなかった。
そこの所だけ、どれだけの計算式を紙に書いたところで
理解ができなかったんだよ。

リリアンは1人で風景を見るのが好きで、
ある日、遥かな向こうに大きな雲を見つけたんだ。
ずっとずっと遠くにある雲がゆっくり漂っていって
どこに行くんだろう?って
リリアンは気になって、
気がついたらさ。
リリアンは歩いてた。何も持たないで歩いてたよ。

雲を追いかけてリリアン。
どこに何をしにいくのリリアン?

夕日が低くなって、風景がオレンジになったのを合図に
リリアンはお腹が空いて来た。
だからリリアンは雲を追いかけるのをやめて
明かりを探した。
大きな大きな景色の中に小さな小さな小屋が、
ポツンと一つだけあったんだ。
リリアンは扉をコンコンと叩いて言ったよ。
「もしもし、誰かいるようだったら開けてください」
扉は開かなかったけど声がした。
「どうぞ、中にお入りください。訳があって僕は扉を開けれないのです」
まだ、凄く小さな男の子の声だった。

リリアンは小屋の中に入ってみた。
すごく無機質な部屋で、壁はどこの面を向いたって
真っ白だった。
そしてその真ん中にベッドが一つ。
この小屋みたいにポツンとあった。
ベッドの中で横になっている男の子に目をやると
男の子はニッコリと笑ってこっちを見てたよ。
「疲れた顔をしてるね。どうか休んでいってください」
男の子は優しくそういったんだ。
リリアンはテーブルにあった林檎を2つだけ食べて
部屋の隅っこで丸くなった。

朝が来て、リリアンは男の子に聞いたんだ。
「君は寝てばかりだね、一体何をしているんだい?」
男の子はリリアンを昨日と変わらず優しい目で見てたよ。
「僕は、どうやら重い病気らしい。
だから生まれてから一度だって外に出たことがないんだ。
ねえ、リリアン。外の話をしてくれない?」
リリアンは男の子に外の話をする事にした。
リリアンが歩いた道。その時の空の色。
空の色が移り変わっていく様子。雨が降ったり
雪が降ったりする事、風が強い日は林檎の木から
林檎がポトポト落ちたりする事。
雨の後に架かる虹の橋の話。
リリアンは男の子にずーっと聞かせてた。
男の子はね、その全てに対して驚嘆や感嘆を込めて
色々な質問をしたんだよ。
「ねえ?虹ってそんなに綺麗なの?
 リリアンはどういう気持ちで その虹を見るの?」
リリアンはわからなかった。
どういう気持ちで風景を見てたのか?
そういう質問だけには答えられなかったんだ。
虹の色や形は教える事ができるのに。
リリアンは自分の事が全然わからなかったんだよ。

「ねえ、リリアン。リリアンは僕に足りないものをたくさんくれたね。
 リリアン、もう少しここにいてくれるかい? もし君が良ければだけど」

そうやってね。リリアンはここにいる事になったんだ。

リリアンはなんだか男の子の笑顔が大好きで
男の子の身の回りの事をなんでもやった。
リリアンは男の子の笑顔を見る為になんでもやった。

だけどね。
だけど。

男の子はどんどん元気がなくなっていっちゃう。
男の子は段々笑わなくなっちゃう。

ある日、リリアンは思いついて
真っ白な壁に空を描いて大きな雲を描いた。
男の子が笑った。
リリアンは太陽を描いた。
男の子が笑った。
リリアンは毎日、壁に色々なものを足していった。
その度に男の子は喜んだよ。
「これが僕の知らなかったことなんだ。なんて勿体無い事を
してるんだろう」って。
毎日、毎日、壁にはね。
今までリリアンが見てきたものの全てが描きこまれていった。
空の色だってたくさん変わってね。
人だってたくさんいてね。
壁の色はどんどん変わっていくのに。
男の子の元気はどんどんなくなっていっちゃう。

リリアンが壁に虹を描いた。
男の子は「綺麗だね」って言った。
でも、もう男の子は笑えなくなってた。
男の子が言った。
「泣かないでリリアン、僕は嬉しいんだから」
リリアンは気づかなかった、自分の両方の目から
ポトポトと、まるで強風の日の林檎のように
雫が落ちていってるのに。
ポトポト
ポトポト
止まらない。
戸惑っているリリアンを見て少年がちょっとだけ笑った。
「なんだいリリアン、初めて泣いたの?
リリアン、憶えていてね。それは悪い事じゃないんだよ」
リリアンは「悲しく」て泣いた。

もう壁の一面は外の色んな景色でいっぱいで
この部屋は世界だった。
リリアンは少しも動けなくなってしまった
男の子を手伝って、全部の壁を見せたんだ。
男の子は「これが僕に足りなかったものなんだね。
ありがとうリリアン。もう一つお願いをしてもいいかい?
僕とリリアンを壁に書いてくれないかな?」
リリアンは虹の麓にね、丁寧に丁寧に2人をかいたよ。
その絵の中で2人は仲良く手を握ってた。
男の子は小さなからだがもっと小さくなって
消えてしまいそうだったけど。
その絵を見た時に 精一杯の笑顔で
「リリアン、ぼくの手を握って。ほら、あの絵と同じだ」 と言った。

「あれ?リリアン。笑ってるの?とってもいい表情だね。
リリアン。いつもそうしているといいよ」
リリアンは男の子の笑顔がまた見れてとっても
「嬉しく」なったんだ。

世界の中で2人っきりでなんだか「幸せ」だったんだけどね。
リリアンはその一瞬一瞬で悲しくなったりとか
嬉しくなったりとか、できるようになってた。
部屋をぐるっと見渡すとね。
ベッドの左の壁から朝になって、そして正面で
夕方になって、右の壁で夜になった。
ベッドの頭上には大きな虹が架かってて。
男の子はその下で優しい顔してる。
リリアンはなんだかそれでじゅうぶんな気持ちになったよ。

最後の日にね。
男の子が言った。
「僕の知らなかった世界は綺麗だね。太陽があって雲があって
木があって、虫がいて、動物がいて、海があってさ。
海って果てがあるの?そして、空。そらはどこまで続くんだろうね。
そして雨が降ってさ、虹がかかったり、雪が降って 全部真っ白になったりするんだね。
リリアン、 どうか僕のかわりにその風景を見て欲しい。
そして僕のかわりに笑ったり泣いたりして。
僕はね、見てるよ。この壁を見てるように
全部全部。そうだ、僕はこの壁にとりわけ大きく描いてある
雲になるよ。そしたら流れて流れてさ。なんでも見れると思うんだ。
リリアン、どうか、僕がいなくなった事を悲しいと思わないで。
世界はこんなに素晴らしいじゃないか。
リリアンどうか。この世界を愛して。
僕は君の笑顔が大好きだよ」

男の子はね、もう凄く小さくなってしまったからだで。
リリアンの腕の中で、小さな小さな声でそう言った。
「ありがとう」
男の子はすごく優しく、穏やかに。
息をしなくなった。
リリアンは
ポトポト
ポトポト
涙を流したよ。
ポトポト
ポトポト。

いつしかね、リリアンの心はね。
真っ白だった心がね。
この壁みたいに、いろいろなものでいっぱいだったよ。
リリアンの心に男の子が描いてくれた風景で
いっぱいだったよ。

リリアンはとても見晴らしのいい
丘の上に、雲に一番近いてっぺんに男の子を埋めた。
「ありがとう」
リリアンは本当に本当にそう思って
言ったんだ。
生まれて初めて、本当に本当にそう思った。

そうしてね、リリアンはまた歩き始めたよ。
雲が流れる方向に。
今度はね、1人じゃないんだ。

リリアンの心の壁に描かれているように
リリアンは男の子と手を繋いで歩いてるんだ。


遠くの方に虹が見えたよ。
リリアンは笑った。
くしゃくしゃの笑顔だった。





posted by 砂糖 at 00:37| Comment(18) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。